MRCラボクリニック、JR三鷹駅、精神科、クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)MRCラボクリニック

治療

クレプトマニアの治療について

 クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)に対して、現在広く行われているのは、認知行動療法です。認知行動療法は、苦痛や困難をもたらす望ましくない思考や行動を正すために、感情も含めたそれらの癖を把握して、望ましい思考や行動パターンを身につけることを目指す療法です。認知行動療法も、クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)を不適応学習として捉えますが、窃盗に至る過程の理解を重要視します。しかし、当院院長が参加しました共同研究(論文名は「研究」をご参照ください)で、クレプトマニアの方をはじめとした行動依存症の方々の中に、ものごとの確率を正確に計算・ 判断できない方々がいること、その方々の右前頭前皮質の活動が減弱していること、などの結果を得ました。これらの結果から、クレプトマニアの治療として、理性に頼る方法では限界が生じると思われます。

 

 学習という側面から、クレプトマニアには、窃盗行為に伴う緊張や快感などの記憶や、成功した条件などの記憶がとても重要と考えられます。当院での治療は、窃盗行為に関係する記憶を標的にします。記憶の関する研究は近年急速に進んでおり、新たな知見が次々と発表されています。従来、長期記憶は一旦固定化すると変えられないと考えられてきました。しかし2000年、固定化された記憶が想起(思い出し)によって一時的に不安定になり、その後再固定化することが動物実験で明らかになりました1)。また、人間においても記憶の再固定化が起こることが明らかとなってきました2)。そのような基礎研究から、記憶の再固定化のメカニズムを用いた、不適応学習の記憶の減弱・消去が、依存症に対する新たな治療法として注目されるようになっています3)。当院では、記憶の再固定化の仕組みを用いた治療を、いち早く臨床現場に導入しました。

 

 本治療の優れた点は、患者さんの協力は必要ですが、努力はほとんど要求されないことです。そして、クレプトマニア(病的窃盗、窃盗症)への治療介入が済めば、生じた変化は長く続くため、診療の間隔を長くとることができ、治療中心の生活を求められません。ただし、当院の治療では、記憶の想起(思い出し)が重要となります。従って、認知障害や知的障害(精神遅滞)を有している場合、治療効果を望めない可能性があります。

  • 1)Fear memories require protein synthesis in the amygdala for reconsolidation after retrieval.
    Nader K, Schafe GE, Le Doux JE. Nature. 2000 Aug 17;406(6797):722-6.

  • 2)Lars Schwabe et al. Reconsolidation of Human Memory: Brain Mechanisms and Clinical Relevance. Biol Psychiatry 2014 Aug 15;76(4):274-80.

  • 3)Paulus DJ et al. Prospects for reconsolidation-focused treatments of substance use and anxiety-related disorders. Curr Opin Psychol 2019 Dec;30:80-86.

  • 4)Comparable level of aggression between patients with behavioural addiction and healthy subjects
    Asaoka Y, Won M, Morita T, Ishikawa E, Lee YA, Goto Y. Transl Psychiatry. 2021 Jul 5;11(1):375.

その他の依存症・嗜癖問題の治療について

当院では、窃盗症以外の依存症・嗜癖問題も扱っています。不適応学習と考える点と、そのため記憶の再固定化を用いた治療が有効と考える点はクレプトマニアと同じです。ここでは、各疾患で困っておられる方々に、当院の治療をお勧めするポイントを簡単に紹介します。

「アルコール依存症」「薬物依存症」

日々回復に努められている患者様方から、過去にお酒や薬物を使用していたのと似た状況や心境になると強い欲求に襲われるとの話をお聞きすることが多くあります。それは、お酒や薬物と、それらを使用するに至った条件が結びついて記憶されているからと考えられます。当院の治療は、そのような記憶を弱めることで欲求の再燃を防ぐことを可能にします。

「ギャンブル依存症」

ギャンブルで負けた直後には反省して2度とやらないと誓っても、時間が経つと大当たりを出した記憶が蘇ってきて、再びギャンブル欲求が高まるという経験を何度もされているのではないでしょうか。当院の治療は、ギャンブルで勝った記憶を弱めることでギャンブルをしないという意思を保つことを可能にします。

「痴漢癖」「盗撮癖」

正式には性嗜好障害ですが、性依存症とも呼ばれる疾患です。成功によって得られる興奮(快感)が強烈な記憶として定着しています。成功した体験の記憶を丁寧に弱めることで、それらの行為を抑えることを助けます。

「下着窃盗」

窃盗と付くので、窃盗症と思われるがちですが、ベランダなどに干されている下着などの衣類を主に盗む行動は、性的な衝動によるものと考えられるため、性的な嗜癖と捉えるべきであり、成功体験の記憶を弱めることで、防止することを助けます。